マイルスの人物像を捉えるうえではもうひとつ、「ミスティフィカシオン」という
キーワードがあります。煙に巻く、といった意味ですが、「オレの言ってい
ることを完璧に理解できるなら、オレになれるよ」という発言は、まさにミス
ティフィカシオンの最たるものだといえるでしょう。マイルスはよく言うんで
すよ。「オレのことはオレにしかわからない。なぜかというと、オレは双子座
だからだ」と(笑)。あからさまにポップなことをするかと思えば、「マイルスマ
ジック」といって、何を言っているのか、やっているのかわからない混濁とし
た部分を持ち合わせていたのがマイルスなんです。たとえば、非常に高い
ポピュラリティをもったクールな音楽のなかに、どろどろとした謎めいた部分
が入っているという作風を、マイルスは終生やめなかった。そこがまた、謎め
いたクールさを生み出していたんです。こういったスタイルの変節は、「わかっ
てもらいたい」という部分と「脅かしてやろう」というアンビバレンスさ、さらに
は煙に巻いてやろうというミスティフィカシオンがよく表れているのと同時に、
クールであることの本質を突いていると思います。というのも、クールさとい
うのは、ジャズが一夜にして転倒したように、ぐるっとひっくり返る特性をもっ
ているからです。全然クールではなかったものが、ある日突然クールになっ
ている。そのなかで常にクールでいるためには、変節していかなければなら
ない。しかもクールというのは、ある意味、禅問答みたいなもので、クールだ
クールだといっている間に、クールじゃないことになってしまうものですよね。
まさに「ぬえ」みたいなもので、何がクールかというのは本当に難しいし、逆
に難しいからこそ、みんなそれを求めている。