私は人間をものにたとえるのは,インヒューマンなので好きでない。しかし,今はほかに言いようがないので使わせて頂くが,今私たちの目の前にいるのは,骨董としてのバレンボイムにほかならない。骨董である以上,その価値は,つきつめたところ,人の好みによるほかない。
 だが,残念ながら,私はもうひとつつけ加えなければならない。なるほど,この芸術は,かつては無類の名品だったろうが,今は −最も控え目にいっても− ひびが入っている。それもひとつやふたつのひびではない。