http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2019090502000129.html
【コラム】筆洗
2019年9月5日

指揮者のカラヤンはその機器から流れてくる音を聞いて不機嫌になったそうだ。
少し前に自分が指揮したオーケストラの練習を録音したもので自分がタクトで台をたたく音まで鮮明に入っている
▼誰か盗み録(ど)りしたのか。最初は不機嫌だったが、迫力ある音を聞いて表情を変えたという。
「これは、まったく新しい音だ。将来を拓(ひら)く音だ」
▼カラヤンに聞かせたのはソニーが試作したデジタル録音機の音。一九七七年のことだそうだ。
この技術がやがて、世界初のコンパクトディスクプレーヤー「CDP−101」(八二年発売)につながる。
開発を担当した中島平太郎さんの『次世代オーディオに挑む』に詳しい
▼国立科学博物館が未来に引き継ぐ科学技術資料「未来技術遺産」。
今年新たに選ばれた二十六件の中にこの「CDP−101」も入った。
針飛びも雑音もないクリアな音。レコードに比べて、小型で扱いやすい。当時の驚きを覚えている人も多いだろう
▼社内は当初、CDプレーヤー開発に慎重だったそうだ。コストが莫大(ばくだい)な上、先行きも見えない。無謀との声も出た。
カラヤンの件が社内を変えるきっかけになったそうだ。よい音を追求する。
技術者のこだわりが社内を動かし、時代を変える機器を世に送り出した
▼いまやネット音楽に押されるCDだが、その中には技術革新へのかつての情熱も「記録」されている。