二十


植田が図書室のドアを開けると、そこには二十人ほどの生徒がいて、静謐にそれぞれが別々の方を向いて、思い思いのことをしている。
ある者は文庫本のコーナーで立ち読みをしており、ある者は机に座ってもくもくと左手に本を抱えて何かを書き写している。
またある者たちは、本棚の間でヒソヒソと何かを話し合っており、雑誌のコーナーでは男が三人ばかりソファーのところで屯している。
植田はそのなかから智子を探したが、一見その姿を発見することができずに、しばらくキョロキョロと辺りを見回していると、
背後から背の高い植田の背中をパンと平手打ちした者がいた。振り返ると智子だった。
「おつかれ」智子はいくぶん眉をキリリとさせて植田にツンとした態度を見せた。
植田と智子はしばらく別々の方を向いて話をした。智子は植田の方を見ずに窓がある東の方角に顔を向けており、植田は智子の横顔と肩を見つめていた。
「あんまり話してると(教師に)目を付けられるから外でようぜ」植田はヒソヒソと智子に言った。
「今日はマック奢ってよ」
智子は相変わらずツンデレをしていた。植田はそれをみて安堵した。
「いいよ。何でも奢ってやるよ。高いやつ頼めよ」そう植田が言うと、智子は「一番高いもの頼んでやる」と言ってこの時初めて植田と顔を合わせた。