時間ができたおかげで、ジジェク氏は昔の映画を見直す暇ができたという。

「黒澤明や溝口健二の作品をもう一度見ている。溝口の『山椒大夫』は私の一番の
お気に入りだ。パンデミックのために日本の名作映画を再発見できたのはありがたい」

ジジェク氏に、このコラムの前の回で、斎藤幸平さんのことをご紹介したことを話した。

ジジェク氏は、斎藤氏の英文著作「大洪水の前に(邦題)」について、何度か書評を
書いていたからだ。さらに斎藤氏はジジェク氏の近著「パンデミック」邦訳の監修・解説
も担当している。斎藤氏のことに話を向けると、ジジェク氏はこう話した。

「斎藤氏には、敬服している。後期マルクスが生態学的バランスを重視していたという指摘
には説得力がある。ただ、すべての点で同意しているわけではない。彼は資本主義に
よって、人間と自然の関係性が破壊されたと強調するが、私は人類はもっと以前から、
自然と対立してきたと考える。私が本格的に著作を読む日本人の思想家は、
斎藤氏と柄谷行人氏の二人だ。柄谷氏は階級社会のもっと以前、人類が狩猟社会から
農耕社会に移行し、定住を始めた時期から、その対立が始まったとみている。
私もその考えに近い。それにしても、日本では欧米が後期マルクス研究の重要性を
再認識するずっと前、1960年代からそのことに気づいていたのだと思う」