ここで、「なごり惜しむ」ことが日本語の表現として具体的にどのように使われる
か考えてみよう。最もよく聞かれるのが、「なごり惜しゅうございますが
(そろそろ〜)」というような別れの挨拶だろう。このように実際に「なごり惜し」
という表現が用いられる場合、「なごり」は、《ce qui est prolongé》を
その一般性において意味しているわけではなく、《ce prolongement》を
その臨場性において、相手と共有されるものとして表現している。
したがって、「なごり惜しゅうございますが」という表現は、そのまま
フランス語に訳すなら、《Bien que ça me laisse regretter ce prolongement》
ということになるだろう。

このようにフランス語に置き換えてみると、「なごり惜し」という表現が
その具体的な用法において既にメタ言語で記述されていることになり、
そこに働いている表現の論理をより明確に捉えることが可能になる。
すなわち、「なごり惜し」とは、相手と共有される臨場性において用い
られる表現であり、その言葉を告げるとき、「なごり」は、自らに
とって「を(惜)しいもの」/《ce que je regrette》であるが、それが既に
《ce prolongement》として、相手にとっても、自らにとっても
「長引いているもの」として了解されるべきことを示していることになる。