「モーゼと一神教」 小山尚之による要約

a.モーゼはユダヤ人ではなく,エジプト人である。しか
も王族のなかの高位のものであり,おそらくアメンホ
テプ 4 世の側近である。
b.モーゼがユダヤ人につたえた一神教は,アメンホテプ
4世 ( のちにイクナートン ) と名乗るファラオが,実
現しようとした一神教である。しかしイクナートンの
宗教改革はそのあまりに激しい偶像破壊ゆえに,のち
の時代には受け継がれなかった。モーゼはイクナート
ンの一神教を実験するためにユダヤ人を砂漠に連れ
出した。
c.ユダヤ人はモーゼの要求する一神教の峻厳さに耐え
切れず,彼を殺害し,その肉を食べた。ユダヤ教にお
いて供犠の子羊を食したり,キリスト教においてイエ
スの聖体(パンと葡萄酒)を拝領するのは,はるかに
遠い過去のモーゼ殺害の無意識の反復である。
d.しかし『旧約聖書』にはモーゼの殺害について一行の
記載もない。彼を殺害した記憶はユダヤ人たちのあい
だで「抑圧」されている。
e.この記憶の「抑圧」ゆえに,ユダヤ人は反復強迫症に
陥っている。この反復強迫は,個人のものではなく,
集団としてのアイデンティティーに関わるもので,世
代から世代へと何世紀にもわたって伝えられる。そし
て預言者があらわれるたびに(たとえばエレミヤ,ゼ
カリア,イザヤ,そしてイエス)ユダヤ人は抑圧して
いる過去の行為を無意識に反復し,彼らを殺害する。
f.ユダヤ人がかくも長きに渡ってモーゼの一神教を
守ってこれたのは,モーゼ殺害にたいする集団的「抑
圧」あるいは「忘却」による。