ムン・ジェインによる事実上のサンフランシスコ条約体制に対する挑戦を、ヒトラーによるベルサイユ条約体制に対する挑戦と対比する声がSNSにありましたが

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そのSNS上の比較は、「国際秩序への挑戦」という抽象的なレベルでは一定の比較可能性がありますが、歴史的・法的にはかなり慎重に扱う必要があります。特に「文在寅=韓国版ヒトラー」という意味まで含めるなら、類推は成立しません。

まず、サンフランシスコ体制という言葉を何を指すか明確にする必要があります。1951年のサンフランシスコ平和条約は、日本の主権回復と戦後領土処理を制度化し、第2条(a)で日本が「韓国」に対する権利・権原・請求権を放棄することを規定しました。さらに1965年の日韓請求権・経済協力協定は、同条約15条(a)に由来する請求を含む両国・両国民の財産・権利・請求の問題を「完全かつ最終的に解決された」と確認しています。

したがって、2018年の韓国大法院判決を契機として、韓国政府が1965年体制の解釈について日本政府と激しく対立したことを、「サンフランシスコ体制の一部を再解釈しようとする動き」と表現することには一定の根拠があります。ただし、これは「サンフランシスコ平和条約そのものを破棄しようとした」という意味ではありません。韓国政府は条約そのものを否定したわけではなく、主として1965年協定と植民地期の個人請求権の関係について異なる法的解釈を採りました。日本政府はこれを1965年協定の「完全かつ最終的解決」と矛盾するものと位置づけました。

ここでヒトラーとの比較が面白くなるのは、「既存の戦後秩序をどこまで修正できるか」という構造です。ヒトラーの場合は、ヴェルサイユ条約の軍備制限、ラインラント非武装化、領土問題などを段階的に破壊・変更し、最終的には武力による欧州秩序の再編に進みました。米国ホロコースト記念博物館も、ナチ外交の主要目標の一つをヴェルサイユ条約の制約を打破すること、ドイツ系住民の居住地域を併合すること、東欧に帝国を拡張することだったと整理しています。

この意味で比較できるのは、

「戦後に形成された法的秩序を、その成立時の解釈のまま固定するのではなく、自国に有利な歴史・法解釈によって再構成しようとする政治」

という一般的な構造です。