なお、注意すべきはこの個所のヴィオラのパートに
trem. semp.と指示されていることである。
ブルックナーのアダージョにおける
『正確な32分音符なのか?』あるいは『自由なトレモロなのか?』
という問題について、この個所の指示は
ブルックナー自身の発言として、大きな意味を持つと思う。
僕は、trem. semp.の指示が無い個所では、基本「正確な32分音符」
で演奏すべきだと思う。
なお、この問題に関しては、ティンパニについてハースもノーヴァクも
その他の原典版編集者もブルックナーのtrem.(トレモロ)併記
を完全に省略しているし、ヒナイス版にいたっては、
ティンパニも弦も何の根拠もなくトレモロ表記とトレモロでない表記を
混在させている。行き当たりばったりなのだ。
要するに、ブルックナーがこの問題について厳密に対応しているのに対して、
全ての印刷版は32分音符とトレモロは同じものとの理解に立っている
というわけである。

原典版編集者の『世間の常識に準じた』編集態度は、奇妙なブルックナー
のこだわりをスコア読者にちゃんと伝えることが出来なかったことに
つながり、非常に残念なことである。
テンポ指示にも同様のことが生じている。