アンドラーシュ・シフ
「ブレンデルと私は多くのハイドン作品を録音していますが、ハイドンの魅力を世の中に広めるという意味では、あまり貢献しているとは言えないでしょう。
 ハイドンが偉大な作曲家であることは誰もが認めていますが、彼の並外れた創造力、豊かなイマジネーション、ユーモアのセンスを真に理解している人は多くありません。
たとえば彼の最後のソナタ(Hob.XVI:52)ですが、変ホ長調の曲なのに、第2楽章はホ長調で書かれ、中間部はホ短調になっています。なんと大胆で奇抜な発想でしょう!
 彼はパパ・ハイドンと呼ばれ、温厚な老人というイメージで語られることが多いですが、彼の作曲書法はそのイメージとはまったく違います。
彼の楽譜にはまったく無駄がなく、最も少ない音符で実に多くのことを語っています。
素敵なピアノ三重奏曲など、彼の作品を弾くたびに、私はこの上もなく幸せな気持ちになり、彼こそがこの世で最も偉大な作曲家なのではないかと思います。」
「最後のソナタ(Hob.XVI:52)ですが、変ホ長調とホ長調の間の距離感を聴衆が理解していなければ、ハイドンのユニークな発想、調を間違えたと思わせるユーモアに気づくことはできないでしょう。
同じように、第3楽章の冒頭のG音の連続は「冗談」……、ただ聴いただけでは、第2楽章の結尾部のホ短調の続きのようですが、左手にE♭音が現れて、騙されていたことに気づき、その後で変ホ長調に戻ります。
 しかし、ハイドンはただユーモアにあふれていただけではありません。この作品は、小さなモティーフで大きな構造物を組み立てるような技法を使っています。
第2楽章の主題のメロディーは第1楽章の展開部から生まれ、作品全体が循環し、ハイドンの傑出した才能を感じさせます。それがベートーヴェンに大きな影響を与えたことは間違いありません。」