>又人の智慧は、いかほどかしこくても限(カギリ)ありて、測り
識(シリ)がたきところは、測り識(シル)ことあたはざるものなれば、
善(ヨ)しと思ひて為(ス)ることも、実には悪(アシ)く、悪しゝと思ひて
禁ずる事も、実には然らず。或は今善(ヨ)き事も、ゆくゆくのために
あしく、今悪き事も、後のために善き道理などもあるを、人はえしらぬ
ことも有(リ)て、すべて人の料簡にはおよびがたき事おほければ、
とにかくに世(ノ)中の事は、神の御はからひなければ、
かなはぬものなり。<
『宣長選集 玉くしげ』、p.186