これ、ドイツ語版、フランス語版、スペイン語版のいづれも丁寧に訳されていて、とても学ぶべきところが多いんだけど、それを日本語訳の底本として使おうとする場合には、気がかりな欠点が生じるんだよね。

ドイツ語版は、簡潔な表現で適確に訳しているように感じられるものの、フランス語版、スペイン語版の訳文と比べると省略が目立つ。フランス語版は、後から付け足された章まで含んでいて、原文を省略することなく訳しているようだが、訳文があまりに明瞭なフランス語の表現に移されてしまっていて、原文を解釈する際に生じるはずの躊躇が感じられない。スペイン語版は、丁寧に的確な訳の表現を探っている感じがするが、たったひとつのことばの訳語で明らかに失策を犯してしまっていて、ことばの表現としてこころが通じなくなってしまっている箇所がある。そして、そのことばは、この作品の登場人物のこころの動きを伝えるのに中核的な役割を担っているため、その失策は、この作品を適切に解釈しようとするなら、放置しておくわけにはいかない。